トランプ新大統領の米国第一主義について、池上彰さんが日経のコラムで解説していました。歴史的には過去にもあったこの政策ですが、それがどんな影響を与えたのか、とても分かりやすかったので感想も交えてご紹介します。
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アメリカ・ファースト即ち米国第一主義
トランプ大統領は就任演説で「米国製品を買い、米国人を雇う」という簡単な2つのルールに従うと述べました。これによって強いアメリカを再建し、雇用を創出することを目指します。その根底にあるのが自国最優先の原則、「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」です。
トランプ大統領は就任後、TPP離脱、NAFTA(北米自由貿易協定)やオバマケア(医療保険制度改革法)見直しなど、矢継ぎ早に様々な行動を起こしたり考えを述べたりしています。
すべて「アメリカ・ファースト」に基づくものかもしれませんが、例えば以下のように、危ない橋を渡っているように見えるものもあります。
台湾の蔡英文総統と電話会談
トランプ大統領は当選後、台湾の蔡英文総統と電話で会談しました。
アメリカは、中国が主張する「一つの中国」を全面的に認めていないものの、大統領が台湾総統とは話しをしないように配慮してきたということです。
「この慣例を破ったことで中国を強く刺激してしまいました」というのが池上さんの言です。しかしながら、米国にとって最大の貿易赤字国である中国を、「赤字解消へ行動を期待して揺さぶっている」(池上さん)という”計算”もあるようです。
米大使館のエルサレム移転
トランプ大統領は、テルアビブにあるアメリカ大使館をエルサレムに移す考えも示しています。
エルサレムは国連決議で国際管理することになっていますが、実状はイスラエルが首都と宣言して占領状態です。池上さんによれば、「アメリカがこれを認めて大使館を移せば、アラブ諸国の怒りを買い、第5次中東戦争が起きかねない」と言うことです。
しかしながら、金融界やメディア界に強い影響力を持つ米国在住のユダヤ系有力者の存在は大きく、大統領の地位を盤石にする上で、イスラエル支援の姿勢を見せることは欠かせないことのようです。
過去の「米国第一主義」
「米国第一主義」は今に始まったことではない
「米国第一主義」はキーワードとして非常に分かりやすく、自国民にもその直接的もしくは短期的メリットが受け入れ易かったことが、先の大統領選挙の結果につながったと思います。
しかしながら池上さんがコラムで言っているように、トランプ大統領は「人種や宗教、国家といった歴史が関わる複雑な課題への配慮に決定的に欠けるように思います」というのは全くその通りだと思います。
ポピュリズムの行き過ぎ、自国優先外国軽視の姿勢は、そのうちしっぺ返しを食うのではないかと薄々思ってしまいます。
保護主義・孤立主義ともいえる米国第一主義ですが、実は今に始まったものではありません。
過去にあった「米国第一主義」の状況、そして、その影響はどのようなものだったのでしょうか?
「モンロー主義」が世界に与えた影響
20世紀初頭、アメリカは欧州に干渉しないという内向きの外交政策を掲げており、それが「モンロー主義」と呼ばれる「米国第一主義」でした。
そのため、ヨーロッパで勃発した第1次世界大戦にも、当初米国は参戦しませんでした。しかしながら、イギリスへの債権が回収ができなくなることを恐れたJPモルガンなど、アメリカの銀行家らによる訴えもあり、アメリカは参戦、戦火はさらに拡大しました。
第一次大戦後、連合国は敗戦国ドイツに多額の賠償金を課しました。その後、1929年にニューヨークの株価が暴落。世界各国は自国を優先した保護主義政策を強め、さらに深刻な状況となる世界恐慌につながりました。そして、ドイツでは、賠償金に反対する運動がもととなり、ヒトラー政権、さらには第二次世界大戦につながったのです。
ドイツへの賠償金も、もとはJPモルガンらのアイデアだったと言われています。第一次大戦後にイギリスからの債権回収が思うように進まず、矛先をドイツに向けたというのが真相のようです。
こうしてみると、当時のアメリカの銀行家というのは、「自国(もしくは自分)さえ良ければ」と言う、保護主義の最たるものだったような気がします。当然、政治家がそれに同調し、さらに国民がそれを許した訳で、一方的に悪人呼ばわりはできませんが。
おわりに
一国の保護主義政策が、過去には全世界を巻き込んだ金融不況や戦争につながりました。
ネットが普及し、20世紀初頭と比べると世界はより近くなっている状況ではありますが、欧米諸国、さらには世界が過去の轍を踏まないように願いたいものです。
日本のような少資源国はとても保護主義・孤立主義はとれません。しかしながら、一国であっても保護主義は全世界に影響を及ぼし、とても対岸の火事にはできません。イギリスやアメリカを始め、保護主義に傾いている国が出現している状況で、今後世界にどのような影響が出るのか考えていくことがとても大切だと思いました。
参考文献
参考にした池上さんのコラム(日経新聞電子版、有料会員限定)です。